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63. 白内障手術前の準備

白内障手術はレンズを入れ直すような事がなければ人生に1度きりですので、後悔ないように手術を受けなければならないのはもちろんなのですが、術後に最もいい視機能の状態であるために気をつけなければならないポイントがあります。

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このページの解説は以下のYouTubeでもしています

https://youtu.be/42CpguJpPOE

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それはどのような事に気をつけなければならないのでしょうか。以前に白内障術後の怖い合併症の1つに眼内炎という目の中で起きる感染症を予防するにはどうしたらいいんだろうかと言う事をお話させて頂きました。簡単に要約すると術後感染症のほとんどは手術中に自分の持っている皮膚周りにいる菌が目の中に入って発症しますので、手術前に瞼のケアと術前の抗生剤の目薬をして瞼周りを出来るだけ清潔にしておく事が大切である事をお話させて頂きました。眼内炎の発症予防にはこのような術前のケアが大切なのですが、その他にも手術前に治療しておいた方が良いこと、この状態だと先にこちらを治療してから白内障手術をしましょうと言われてしまう事があるのでそちらに関してお話させて頂きます。

3つポイントがありまして眼瞼下垂と翼状片、そしてドライアイです。

まず1つ目眼瞼下垂というのは上瞼が正常の状態よりも下がっていることを言います。眼瞼下垂は60代以降の加齢性の白内障とだいたい同時期に起きている事が多いです。瞼が下がってくるなんて大した事ないだろうと思われがちなのですが、瞼が下がるというのは上眼瞼挙筋という瞼をあげる筋肉が弱くなっている事が多くなっています。黒目あたりまで上瞼がおちてくると視界に入ってくる光が少なくなりますので暗い感じがしますし、何より目をあけるのも疲れるし眼精疲労の原因であったり視力低下の原因になったりします。

白内障手術が終わったあとでも治療すればよいのではと思われるかもしれませんが、眼瞼下垂は乱視を引き起こす原因になります。重い瞼が角膜を圧迫して角膜を変形させるんですね。垂直方向に押すので直乱視の原因になることを言われたりします。このような眼瞼下垂による乱視がある状態でレンズを入れた、その後に眼瞼下垂の手術をしたとなるといわゆる度数のズレが生じる原因になってしまったりする可能性があります。

ですので先に眼瞼下垂の手術をする、その後に元々の角膜の状態で正しいデータを測定したほうが眼内レンズも正確な度数を出すことが出来ます。多くの方は先に白内障手術をした後に眼瞼下垂の手術をされる方が多いです。本来順番は逆のほうがいいです。瞼が重いし白内障の症状もでている方は先に瞼の治療をされることをおすすめします。

次に翼状片という病気です。翼状片というのは白目の結膜から黒目の組織向かって侵入していく異常組織です。目頭の方から三角形状に入り込んできます。

はっきりした原因は不明ですが紫外線であったり歳をとることで出来る目の良性腫瘍です。この翼状片は目の黒目に多少かかる程度なら問題ないのですが、どんどん黒目に向かっていくと組織が角膜を圧迫して乱視の原因になります。結局のところ瞼の話しと同じなのですが、予め乱視の原因となるものを先に手術で除去しておかないと正確な元々の角膜の状態が把握できません。何故角膜の状態の事ばかり言うかと言いますと白内障手術のレンズの度数の決定には角膜の状態は術後に大きく左右するからです。

先に白内障手術をした、その後に翼状片の手術をしたということでは角膜の状態が異なってしまうので見え方が悪くなってしまう可能性があるんですね。先に翼状片がある方はそちらの手術をして角膜の部位が安定してから白内障手術を計画しましょうと言われる事があります。

白内障の症状がすでにある方はそちらの治療のために白内障手術が延期になる可能性があると言うことを知っておくといいと思います。

最後にドライアイです。白内障手術術後はドライアイの影響が出やすいと言われております。これは手術による切開創が原因であったり手術中のかけ水の影響または術後の点眼など様々な事が原因なのですが、元々ドライアイによる症状がある方は余計にドライアイがひどくなる傾向があります。ドライアイは単に目が乾燥するだけはありません、角膜が乾いてに小さな傷ができる事でハロー・グレアのような異常光視症の原因になったりものが二重にみえたりする複視という症状であったり大きく視機能に影響する場合があります。

白内障手術前にドライアイがあった、治療を提案しても市販の目薬をさしているからいいですと言われる事がよくあります。市販のドライアイの目薬と医療用医薬品のドライアイの目薬で決定的に違うのはムチンという涙成分にとても大切な成分が入っているか入っていないかという事があります。その他にも市販の目薬は血管収縮剤や清涼剤が入っている関係でこれが実はドライアイを悪化させている場合があります。ドライアイの目薬は、ムチンという物質を補充することがとても大切なんです。医療用医薬品だとジクアスだとかムコスタという名前の目薬です。ある程度効果を実感できるのに時間がかかるのですが涙成分のうちのムチンを補充して術後のドライアイがひどくならないようにしておくもしくはドライアイで出来ていた目の傷を直しておくことはとても大切です。

今回のお話をまとめますと

①角膜の状態は眼内レンズの度数を決める上でとても大切です。

②眼瞼下垂と翼状片が乱視の原因になっている場合があります。

③予め乱視の原因になっているものを除去して元々の角膜の状態を把握することがレンズの度数ズレを防ぐ上で大切です。

④そのため白内障手術前にこれらの治療を先にしておいたほうが良いです。

⑤ドライアイは術後の視機能に影響するのでこちらも先に治療しましょう

という5点です。白内障があるととにかく白内障の治療を急ぎたい方が多いのですが、術後の度数ズレを防ぐためにこのように治療が必要なことがあります。特に白内障手術を受ける上で多焦点眼内レンズ、3焦点タイプを考えている方はこれらを術前に直しておくことが大切です。他の単焦点眼内レンズや焦点深度拡張型の眼内レンズと違い3焦点タイプは術後の残った乱視が大きく視機能に影響することが知られています。たった0.5Dの軽い乱視でも残ると遠方視力が悪くなるので限りなく乱視を0にしなければなりません。今回は白内障手術前にしておく準備に関してお話させて頂きました。


(2022.3.14)