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31. 眼圧と血圧の関係

眼圧と血圧の関係に関してお話しさせて頂きます。
血圧はよく聞きなれた言葉だと思いますが、眼圧ってご存知でしょうか、緑内障の患者さんには聞き慣れている言葉だと思います。簡単に説明すると目の中には房水というお水があって、目の圧力としてよく血圧みたいなものとしてたとえられます。この圧力が高すぎると目の奥の視神経を傷つけて、緑内障を進行させる原因になります。眼圧には正常値があります。10〜21までの眼圧値が正常値といわれます。緑内障の治療というと唯一エビデンスのある治療は眼圧を下げることです。もとの眼圧より低い値を維持する事が大切であり、日本人に多い正常眼圧緑内障という病気は無治療時の眼圧より30%下降させることで80%の方は進行が抑えられると言われておます。例えば治療前の眼圧が20ほどなら14くらいまで下げることが目標眼圧の値となります。
血圧にも正常値がありますよね、収縮期血圧が130未満が正常値内で、140以上になると軽度高血圧という部類にはいります。
血圧もそうですが、やはり高いと脳梗塞だとか狭心症とか色んな病気の原因になります。眼圧ですが、血圧となんとなく似たような名前であるし、同じ体内の圧力を示す値のものです。血圧と眼圧ってなんか似てるし、血圧高いと眼圧も高くなるのかな?血圧下げないと眼圧も下がらないのかなと思わる事もあると思います。実際、患者さんにもよく聞かれます。
血圧が高いほど、眼圧が高くなるという報告は事実ありますが、一般的には血圧が高いから眼圧は高いとは限りません。ですから血圧が高いからまずは眼圧を下げるために血圧を下げないといけないとか考える必要はあまりなく、優先するのは目薬をしっかり使って眼圧を下げる事のほうが重要です。皆さん驚かれるかもしれませんが、むしろ血圧が低いほど緑内障が悪くなるというような報告もいくつかあります。緑内障は原発開放隅角緑内障とか、閉塞隅角緑内障とか病系は色々あるのですが、その中でも日本人に1番多いのは正常眼圧緑内障という眼圧が正常値であるにも関わらず緑内障になっている病気です。何故眼圧が正常なのにも関わらず緑内障になってしまうのか、実はこれにはいまだはっきりした結論が出ていないんです。
1つは眼圧説です、眼圧は正常値なんだけど、その眼圧ですらその人にとってその眼圧が負担となっていると考えられる場合です。2つ目が循環障害説です。こちらは血圧との関係を指摘している説です。視神経周囲の血流が悪いから、緑内障を悪化させてしまっているのではないかという考え方です。これも様々な研究が行われているのですが、1990年代にカルシウム拮抗薬という内服薬が緑内障の治療として流行った時がありました。これは血圧を下げる薬です。血管平滑筋に作用し、末梢血管が拡張します。その事により視神経周囲の血液循環がよくなり、緑内障の進行抑制に効果があったという報告が出た事によります。一時的に流行ったのですが、その後に循環器系に障害が起きたなどの報告が出たため、結局そこまで流行らず緑内障メインの治療にはなりえませんでした。今でも内服をされている方もおり、緑内障が安定している方はもしかしたらこの薬のためかもしれませんので、そのまま内服していただいております。ただ、最近の報告だとそれとは逆に血圧が低すぎると日本人に特有の正常眼圧緑内障にはリスクであるという報告がでました。2020年のIOVS(Risk Factors Associated with Structural Progression in Normal-Tension Glaucoma: Intraocular Pressure, Systemic Blood Pressure, and Myopia. )という眼科の高いレベルの雑誌からの報告だとカットオフ値は収縮期血圧108mmhgです。これ以下になると視神経繊維が減ったり、乳頭出血といってこれも緑内障のリスクファクターなんですがそれらを悪化する可能性があるということが分かったんです。これは視神経への血の巡りの悪さが原因ではないかと言われています。眼球への血液の巡りは眼灌流圧といわれていますが、この眼灌流圧は「血圧ー眼圧」の値で表されます。すなわち血圧が高いほど、そして眼圧が低いほど眼灌流圧が高いということになります。眼灌流圧が高ければ血の巡りがいいということになるんです。この眼灌流圧を考えてもらえば分かるように眼圧が下がれば、眼灌流圧があがります。このため緑内障治療で眼圧を下げることは理にかなっているのですが、では高血圧であればいいのかというとそうではありません。ここは一定の見解が得られておりませんので私的な意見も一部入りますが高血圧は緑内障にとってはいいのかもしれませんが、やはり全身的なリスクを考えると当然正常値内に抑えておくべきです。一般的に血圧が低くて問題になることってあまりないですよね、眼圧が低くコントロール出来ているにも関わらず緑内障の進行がある場合は血圧を考えてみるのもいいのかなと思いますが、いずれにせよしっかり点眼して眼圧を下げることが最優先になると思います。私自身は長年緑内障外来につとめており、その時の上司の教えであったり自分の臨床経験からやはり眼圧下降が何よりも大事だと実感しております。もともと眼圧が低い人でも更に下げる事で、視野進行が落ち着いた方などをみますと眼圧下降の必要性を再認識いたしました。
この血圧と眼圧の関係はまだ完全な答えが出ておりませんが、あまりにも血圧が低い方は注意する必要があるかもしれません。

(2021.6.27)