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42. 緑内障患者さんが白内障手術を受ける場合

緑内障患者さんが白内障手術を受ける場合の注意点に関してお話させて頂きます。私は緑内障専門病院で働いておりまして緑内障がある患者さんの白内障手術は多数手がけてまいりましたし、その経過も長く診させて頂きました。今までに白内障に関して色々お話させて頂きましたが、眼に病気がない正常な方に関しては単焦点眼内レンズから多焦点眼内レンズなど特に制限がありませんので、結局のところ好きなレンズを眼科医と相談してメリット・デメリットを理解した上で選んで頂いていいと思うのですが、緑内障がある患者さんに対してはレンズ選びから白内障術後で注意することが色々あります。
例えば眼内レンズに関してですが、緑内障患者さんでの白内障手術において眼内レンズを選択する場合、多焦点眼内レンズを希望されている方にはがっかりされるかもしれませんが、基本単焦点眼内レンズを選択することがほとんどです。
緑内障という病気は視神経に乳頭陥凹、カッピングといいますが、そのような特徴的な神経へのダメージが起きて視野欠損が起きる病気です。すなわち視野欠損がある部分に関してはコントラストの感度低下が起こります。コントラスト感度の低下が起こった部分は視界が不明瞭になっていき、さらに緑内障がすすむと完全に視界が一部欠損してしまいます。そのために眼内レンズを選択する場合はできるだけコントラスト感度をこれ以上低下させないレンズを選択する必要があります。
実は多焦点眼内レンズと比べるとその単焦点眼内レンズの方がコントラスト感度はいいんです。術後眼鏡は必要になりますが見え方のシャープさは単焦点眼内レンズが優れています。これは今までにブログでもお話しましたが見え方のすっきり度に関しては多焦点眼内レンズは少し劣るんですね。
そのため緑内障でただでさえ、コントラスト感度が低下している状態で多焦点眼内レンズは入れることは原則禁忌と言われていますので、多くの場合は単焦点眼内レンズが選択になります。多焦点眼内レンズに希望をもっておられた方もおられると思いますので、そのような方には残念だと思いますが、緑内障患者さんにおいては単焦点眼内レンズでも充分に多くの方が満足されておられますし、例えば乱視があれば乱視用の単焦点眼内レンズ、トーリック眼内レンズといいますがこのようなものを用いれば視力がある程度回復することが多いです。
ただし、通常の白内障だけの患者さんと違いまして白内障手術をすることで白内障による視力低下は回復しますが、緑内障で失われた視野欠損に関しては回復することがありませんので、術後一番良く言われるのは
「見えるところと緑内障で見えないところがはっきりするようになりました」
と言われることが多いです。
私にとっては緑内障専門施設で白内障手術を行っていたということもありこの点は術前によく患者さんにお話をするのですが、視野で見えているところはもう少しはっりきみえるようになると思いますが、欠損している部分に関しては回復しませんよお話します。というのは患者さんの中には白内障が強くて視界がどこもぼんやりしている方はかなりの緑内障があるにも関わらず白内障のために緑内障の視野欠損を自覚していない方もおられますので、そのような方に白内障をすると術後見えるところは見えるのに見えないところがある、これは手術の失敗ではないのかと言われることがありうるからなんですね。
このように緑内障はコントラスト感度が低下していく疾患であり、そもそも適応ではないのですが多焦点眼内レンズを入れて遠方から手元まで眼鏡なしの生活を考えるよりは単焦点眼内レンズでコントラスト感度が低下しないものを選んだほうがいいと考えるからです。
ただ緑内障の患者さんでも多焦点眼内レンズが適応になる場合があります。考えられるのは2つの場合で、一つは高眼圧症と診断されている場合もしくは初期の緑内障で視野障害がわずか、そしてなおかつその状態がずっと、すっとというと最低でも5年、10年くらいの単位で長期にわたって進行がないことが確認できている方です。この場合は単焦点眼内レンズもしくは多焦点眼内レンズどちらも適応になると考えます。高眼圧症とは眼圧が正常値より高いのだけれど、先程お話したカッピングや乳頭陥凹といった視神経の変化がなく緑内障視野が発症していない状態のことをいいます。このように視野欠損がないもしくは視野欠損がわずかで眼内レンズをいれた場合に悪い影響が起こりにくいと考えられる場合は選択肢としては多焦点眼内レンズも候補になると思いますが、その場合においても出来るだけ単焦点眼内レンズを選択することが無難だと思います。それはやはり今後同じ安定した状態が必ず保証されるのかというとそれは誰にも分からないからです。中期から末期の緑内障患者さんに比べたら安全性は高いと思いますが、最終的には家族歴や年齢、生活スタイル等を加味しリスクと天秤にかけて決定することになります。
このように主にコントラスト感度の低下の点でただでさえコントラスト感度が低下している状態で更に落ちる多焦点眼内レンズを入れることはないでしょうというのが原則不適応と考えられている点なのですが、こちら側にとっても実は具合が悪いことがあります。こちら側というと眼科医側です。
それは緑内障で進行の経過をみるときに視野検査をされていると思うのですが、この判定が難しくなる場合があります。多焦点眼内レンズが入った状態で視野検査をすると、視野検査では光の感度、簡単に言うとコントラスト感度なんですが、dBといった単位で測定するのですがその単位が術後低下した場合、多焦点眼内レンズでのコントラスト感度低下のためなのかそれとも緑内障が進行したのか判定が困難になる場合があります。論文では単焦点眼内レンズよりも多焦点眼内レンズで視野検査において感度が低下したという報告もありますのでこの点も検査を評価する側にとっても悩む材料になるんですね。本当に視野が進行しているなら点眼を増やすのかそれとも手術などの対応が必要になることも当然検討しなくてはならないからです。
色々お話させていただきましたが、今回のお話をまとめますと
①緑内障患者さんにおいて多焦点眼内レンズが不適応なのは、緑内障でコントラスト感度が低下している状態でさらにコントラスト感度が低下させる可能性がある。
②高眼圧症とずっと安定している初期の緑内障の方は多焦点眼内レンズも候補にあがります。ただしその場合でも単焦点眼内レンズの方が無難です。
③多焦点眼内レンズの場合視野評価が困難になる場合があります。
以上になります。今回は緑内障患者さんにおいての眼内レンズの選択に関してお話させて頂きましたが、やはり多焦点眼内レンズの対象となる基本的な考え方は緑内障に限らず白内障以外の眼疾患がない方に限られます。緑内障にしろ黄斑疾患、網膜症の方はなんらか網膜の機能が低下している状態ですので基本的には適応にはなりません。
今回は緑内障患者さんにおいての眼内レンズに関してお話させて頂きました。


(2021.8.8)