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15. MIGSという新しい緑内障手術

緑内障手術でMIGSという2017年から出てきた手術に関してお話しさせて頂きます。緑内障の手術というとマイトマイシン併用線維柱帯切除術、ドラベクレクトミーという代表的な手術があり、その他に線維柱帯切開術、トラベクロトミーという手術があります。この2つの手術は古くから緑内障手術の代表的な手術であり、その効果は海外、国内含めて様々な論文で報告されており今でも緑内障手術の中心になっています。緑内障治療の唯一確かなものは眼圧を下降させることです。目標眼圧はもとの眼圧から30%下降させる事(無治療の眼圧が20ぐらいなら目標眼圧は14になります)と言われていますが、点眼治療で眼圧を下げてもそれでも視野の進行がある場合があります。このように点眼や内服薬のような薬物やもしくはレーザー治療で眼圧下降不十分と判断された場合は手術適応になります。ただ緑内障手術は白内障手術と違い視力を回復させたりするものではありません。むしろ見え方の質が落ちる可能性がある手術です、それでもしなくてはならないのは眼圧を今より下げないとどんどん見えなくなるのでやらざるおえないというのが緑内障手術です。緑内障で最も眼圧を下げる可能性が期待できる手術は今でも線維柱帯切除術という手術です。1991年からマイトマイシンという薬を使ってこの手術の術後成績はぐっとよくなり、以降現在まで緑内障の代表的な手術として行われております。ただ、この手術にも欠点があります。細かくいうと色々あるのですが、大きく2つで、1つは術後感染症です。手術した部位からバイ菌が入り、感染する結果適切な処置が遅れると目が見えなくなってしまう眼内炎という病気です。もう1つは眼圧を下げ過ぎることによって起きる低眼圧黄斑症です。眼圧を下げることが緑内障の治療なのですが、眼圧も下げすぎると眼球の構造が維持できなくなり、目の機能で一番大事な黄斑というところに炎症が出てしまうのですね。私は緑内障専門の大学病院で働いていたこともあり、この手術の経過を見ない日はほぼなかったわけですが、いくらこの手術が有効であっても合併症を考えると避けれるなら避けれる方がいいに決まっているし、30年近くこの術式が行われているということで、もっと低侵襲で同じくらい眼圧下降が期待できるものはないものかなと考えております。その中で2017年以降で脚光を浴びているのがMIGSという低侵襲緑内障手術です。MIGSは、英語の略語です。正式には、micro invasive gulaucoma surgery,これを日本語に直すと低侵襲緑内障手術となります。要するに、「目に負担の少ない緑内障手術」ということになります。これは先程お話しした線維柱帯切除術と異なりもう1つの緑内障手術、線維柱帯切開術を負担がかからないように別方式でしたり、インプラントを入れることによって房水流出路を改善させて眼圧を下げるという低侵襲の手術です。従来の線維柱帯切開術は結膜というところを切ったのちに、強膜というところを切ってという方法をしていました。時間がかかるという点であったり、結膜を切るとその部位は瘢痕化するため今後新たな緑内障手術をする場合、その部位が使えなくなってしまうんですね。そのため後に線維柱帯切除術を行わなくてならない場合は違う場所で手術をしなくてはなりません。今回MIGSという手術は結膜切開をせず、角膜に小さな穴を空けて手術をしてしまうという方法なんです。眼の中から手術を行い線維柱帯切開術を行ったり、1部インプラントを入れて同様に房水の流出を促す方法です。MIGSという手術は今だと5つぐらいあり、スーチャートラベクロトミー、マイクロフックトラベクロトミー、カフークのデュアルブレード、トラベクトーム、istent(アイステント)があります。いずれの手術も基本は初期から中期の緑内障手術が対象です。istent(アイステント)という手術は白内障手術も併用しないと行えません。小さなインプラントを目の中に入れて固定します。これらMIGSと言われる手術と線維柱帯切除術の違いは簡単にいいますと、線維柱帯切除術はミドルからハイリターン、ミドルリスクがあります。すなわち大きな眼圧下降を得られるが、合併症もそれなりに覚悟しないといけないという手術です。MIGSの手術はローリクスでローからミドルリターンな手術です。すなわち眼圧下降は線維柱帯切除術ほど期待はできないけど、合併症はほとんどありません。ですから線維柱帯切除術という緑内障の手術で最も眼圧下降が期待できる手術の代用にまではいかないのですが、線維柱帯切除術のような感染症や低眼圧黄斑症という深刻な副作用が出る事はまずありません。深刻な合併症はほとんどないのですが、MIGSはほとんどの症例で前房内出血といって、目の中で出血を起こします。線維柱帯という部分を切ることによって眼圧が下がりblood  reflexという血液の逆流が起こるからなんです。この出血が目の中にある間2週間ぐらいは見にくいのですが、自然に引いていくので心配はありません。MIGSで行われる手術は上強膜静脈圧の7〜8mmHg以上は下がらないと言われいるので、眼圧は下がっても9〜10mmHgぐらいまでが限界です。長期成績もまだ出ておりませんので、今後の経過が気になるところです。低侵襲でやれる手術ですが適応は早期〜中期ぐらいまでの緑内障患者さんが中心になっています。その他に点眼にアレルギーがあって有効な手段がないと言う方にもいい適応かと思います。


(2021.4.17)