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10. フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術に関して

前回は白内障手術に関して昔から現在にかけての歴史をお話させていただきました。昔はインドで初めて白内障手術に対してカウチング法といって太い針金を角膜にさしてそのまま水晶体を眼球内に落とすという荒業な方法
から始まり、現在は小切開手術でどこのクリニックでも大学病院でも同じ質の手術を受けられるようになりました。

ここ数年で新しくなったことというとまず一つ目にフェムトセカンドレーザーというレーザーで白内障手術の一部を行う事が出来るようになったことです。フェムトセカンドレーザーといいますと、レーシックを行うときに使用する医療用のレーザーなのですが、これを白内障手術の一部に用いることです。フェムトっていうのは長さの単位なんです。キロ、センチ、ミリ、マイクロ、ナノ、ピコ、ナノ、そしてフェムトという順番で小さくなります。セカンドというのは1秒あたりという意味です。1000兆分の1秒高エネルギーのレーザーを連続照射すると日本語で言い換えるならこうなります。1000兆分の1秒レーザーを出すって凄い技術ですよね、白内障手術において眼内レンズが出来たことが第一の発明、超音波の機械が出来たことが第二の発明、そしてフェムトセカンドレーザーでの手術が第三の発明なんていわれているようです。
私たち眼科医は手術する際に水晶体を削るときに超音波を用いますが、機械を使うといえど全てマニュアルの操作です。その白内障手術の工程の一部をレーザーでやってしまうということです。白内障手術は角膜切開、前嚢切開、核分割、核皮質吸引、そしてレンズ置換して手術を終了するという順を取ります。その内の角膜切開、前嚢切開、核分割をレーザーで自動に行い安全にできるというものです。白内障の手術はだいたい10分前後でおわってしまうような手術なのですが、超音波などの機械を使うとはいえどマニュアル操作です。その作業の一部を機械でやってしまおうというのがこの手術です。眼のこととは別の話になりますが、例えば胃癌や大腸癌など昔はお腹を切ってやっていた手術もダビィンチといって機械が手術をしたりしますよね。いわゆる白内障手術も一部機械がやってくれるようになったのです。医療はどんどん進歩して早く、確実に低侵襲でますます進んでいくんだろうなと思ってます。
フェムトセカンドレーザーで行う白内障手術は手術を全自動でやるための第一歩だと思いますが、完全に機械のみで自動で手術が終わるのはまだまだ難しいだろうなと勝手ながら思っております。さて、マニュアルになった白内障手術を一部レーザーで行う事で結局何がいいのかというのが焦点になります。一つ目は前嚢切開といいまして、水晶体の最表面を自動で切開することです。私達は通常前嚢鑷子というピンセットで前嚢切開をしたのちに、濁った水晶体を超音波で削り取り除き、その後に新しいレンズを入れるわけでこれを正確に円形に切開にすることで多焦点レンズなど特にレンズのポジションが重要といわれている手術においてそれを可能にします。多焦点レンズはレンズの特徴のためレンズの位置が大きくずれたりすると期待されるレンズの効果が得られない場合がありますので、前嚢切開を正確に行う事はレーザーであれマニュアルであれ非常に重要です。二つ目にチン小体といいましてレンズを支える筋肉があるのですが、この部位が弱いと通常のマニュアル手術においてリスクになる場合があります。水晶体を超音波で削るときは工事現場のように振動があるんですが、その振動で水晶体を支えているチン小帯がちぎれてしまうんですね。ちぎれてしまうと人工レンズがしっかり固定できなくなり、糸でレンズを縫い付ける逢着手術という特別な処置が必要になる場合があります。ただレーザー手術だとチン小帯への負担が少なくこういう方にも低侵襲で行えます。3つ目に白内障がかなり進行した眼に関してもメリットがあります。白内障がある一定以上に進行すると白内障は固くなります。通常白内障手術の場合水晶体を細かく分割してから吸引して吸い取るのですかま、固くなると分割の操作にエネルギーを使うんですね。エネルギーを使うということは先ほど申し上げたチン小帯に負担がかかりレンズがうまく固定できなくなることもありますし、時間もかかりますので炎症が出ます。また前嚢切開をする際にも特殊な染色をしたりして切開する場合もあるのですが、レーザーを用いればこういった過程を踏む必要もないんですね。自動で機械が行ってくれますので術者の立場からすると楽だろうなと思っております。
以上の3点がレーザー手術を行うメリットだと考えます。
一部この手術が適応にならない方もいるのですが、基本は多くの方が適応になります。この手術保険診療で行えればいいのですが、自費診療なんですね。例えば先ほど申し上げたお腹の手術のダビィンチでの手術などは保険診療です。白内障手術の一部をレーザーで行うだけなので、保険診療に組み込んでしまえばいいのにと思うのですがそうではないみたいです。普通の白内障手術を行った場合両眼でだいたい12万くらいですが、このレーザー手術を行う場合は自費診療なので両眼で70~120万程かかるみたいです。結構高くないでしょうか?眼は一生のことですので、少々高くても払える人はそれでいいのですが、払えなくてこの手術を受けたいのに受けれないという人も出てきてしまいますよね。私自身は正直に申し上げますと、レーザーを使用しなくてもマニュアルの手術で充分だと思っております。自分自身が仮に手術を受けるとしてもわざわざレーザーを用いる手術は選択しないかなと思っております。マニュアルの手術をしていて悪かった結果にあったことがあまりないというのもあるんですが、割と最近になって出た新しい方法なので長期成績がまだわからないものは気が進まないということもあります。実際2020年の論文でレーザー白内障手術と従来のマニュアルの白内障手術を比べた論文がophthalmologyという眼科のトップジャーナルから報告され(Femtosecond Laser-Assisted Cataract Surgery Versus Phacoemulsification Cataract Surgery (FACT): A Randomized Noninferiority Trial)術後の見え方から合併症に関して有意差がなかったという報告が出ております。
そもそも機械自体数千万する高額のものでクリニックでとても簡単に買えないという懐事情も私にはもちろんあるのですが、そういったことは別としても現状はマニュアル手術でよいのかなと思います。


(2021.4.3)